マグロ養殖は持続可能なのか
大阪市西成区の商店街、動物園前1番街が主催する「動物園前サイエンスカフェ」は、1月28日、おとなしいマグロを作出してマグロ完全養殖に役立てるというゲノム編集技術の産業利用について知るために、水産研究・教育機構西海区水産研究所(長崎市)から玄浩一郎さんを話題提供者に招きました。この企画は、農水省の「農林水産先端技術の社会実装の加速化のためのアウトリーチ活動強化委託事業」による講師派遣を利用させていただきました。農水省は、この「アウトリーチ活動」支援によって、遺伝子組換え農水産作物の社会的受容を向上させようとしています。

2014年11月、国際自然保護連合IUCNは太平洋クロマグロを絶滅危惧種に指定しました。これは近年、マグロの需要が国際的に高まる一方で、個体数が減り続けていることによります。実は、太平洋クロマグロは、日本近海で産卵、稚魚から幼魚まで成長し、やがて太平洋を横断するまでの成魚になるということが、最近になってようやく分かってきたそうです。日本では、これまでも、マグロの養殖がおこなわれてきましたが、それは日本近海で育った天然幼魚を捕獲し、それを生簀に移して育てるというものでした。これでは、天然のマグロが枯渇すると養殖も成り立たなくなってしまいます。
このようなことから、マグロの受精卵から成魚までの完全養殖への関心が高まっていました。良く知られているように、近畿大学は2002年にマグロの完全養殖に成功し、既に近大マグロというブランドで市場に流通しています。
日本近海で、雌マグロは海面近くを泳ぎながら、直径1 mmの卵を何100万個も放卵、この雌を追う雄マグロが海水中に精子を放出して受精します。卵は小さく卵黄をほとんど持たないため、孵化した稚魚は直ちにプランクトンを捕食するようになります。さらに共食いもしながら、わずか3か月で30 cmにまで成長。つまり、マグロはたくさんの卵を産んで、そのたくさんの稚魚に海の栄養を広くかき集めさせ、やがて結果的にそれらが少数の成魚の体を作ってゆくという生存戦略を取っています。

マグロは高速で泳ぐ魚です。紡錘形の体や鰭の形、表皮までも、水の抵抗を減らし高速遊泳に適しするよう進化しています。一方、マグロは自分で鰓を動かすことをしないので、常に泳いでいないと呼吸困難になって死んでしまいます。そのため、マグロの養殖のためには、直径40 m、水深20 mもの大きな生簀が必要になります。
マグロは光などの刺激に敏感に反応して、瞬発的に時速60kmもの高速で泳ぎ、その結果生簀の網に激突して死ぬということもよくあるそうです。また、日本海で行われている天然マグロ漁では、網が使われていますが、捕獲する時にマグロが激しく暴れ、体温が上昇し肉が「焼ける」という現象を起こすそうです。焼けてしまった肉は著しく食味が劣化するのですが、それらは回転ずしに出荷されてゆくとのこと。天然物で有名な大間マグロであっても、捕獲に時間がかかり暴れたときにはやはり肉が焼けてしまうそうで、天然マグロには当たりはずれがある。その点、養殖マグロはよく管理されているので、めったにはずれは無いそうです。
西海区水産研究所の玄さんたちは、マグロ養殖をより容易にすることを目指し、刺激に敏感な反応に関与する遺伝子をゲノム編集技術で切断し、「おとなしい」マグロ稚魚を作ることに成功しました。しかし、実際にはマグロは、サケのように人工授精ができないので、水槽で飼ったマグロが産卵受精するのをひたすら待ち、産卵したら直ちに水槽から受精卵を回収、卵割が始まる1時間ほどの間に素早く、顕微鏡の下で1個1個卵に人工制限酵素を注入するという気の遠くなるような作業をせねばなりませんでした。
また、そもそもたくさんの卵からわずかの成魚が成長するというマグロの生存戦略のため、遺伝子操作を成功させた稚魚を成魚まで成長させるのもたいへんです。しかし、一旦「おとなしい」マグロが成魚まで成長すれば、その子もおとなしい遺伝子を保持しているので、おとなしいマグロの完全養殖のサイクルが可能になります。
しかし、完全養殖といっても、今のところマグロの養殖には人工飼料はなく、マグロを1 kg成長させるのに、15kgものサバが与えられているそうです。マグロは太平洋の生態系の頂点にあります。人間はそのマグロを日常の食卓に乗せ続けようとする。気候変動とも関連し、地球規模で漁業資源が減少し続けている中、はたしてマグロ養殖は持続可能なのでしょうか?遺伝子操作の産業利用を考えるという企画でしたが、むしろ海洋生態系と食のあり方を考えるサイエンスカフェになりました。

2014年11月、国際自然保護連合IUCNは太平洋クロマグロを絶滅危惧種に指定しました。これは近年、マグロの需要が国際的に高まる一方で、個体数が減り続けていることによります。実は、太平洋クロマグロは、日本近海で産卵、稚魚から幼魚まで成長し、やがて太平洋を横断するまでの成魚になるということが、最近になってようやく分かってきたそうです。日本では、これまでも、マグロの養殖がおこなわれてきましたが、それは日本近海で育った天然幼魚を捕獲し、それを生簀に移して育てるというものでした。これでは、天然のマグロが枯渇すると養殖も成り立たなくなってしまいます。
このようなことから、マグロの受精卵から成魚までの完全養殖への関心が高まっていました。良く知られているように、近畿大学は2002年にマグロの完全養殖に成功し、既に近大マグロというブランドで市場に流通しています。
日本近海で、雌マグロは海面近くを泳ぎながら、直径1 mmの卵を何100万個も放卵、この雌を追う雄マグロが海水中に精子を放出して受精します。卵は小さく卵黄をほとんど持たないため、孵化した稚魚は直ちにプランクトンを捕食するようになります。さらに共食いもしながら、わずか3か月で30 cmにまで成長。つまり、マグロはたくさんの卵を産んで、そのたくさんの稚魚に海の栄養を広くかき集めさせ、やがて結果的にそれらが少数の成魚の体を作ってゆくという生存戦略を取っています。

マグロは高速で泳ぐ魚です。紡錘形の体や鰭の形、表皮までも、水の抵抗を減らし高速遊泳に適しするよう進化しています。一方、マグロは自分で鰓を動かすことをしないので、常に泳いでいないと呼吸困難になって死んでしまいます。そのため、マグロの養殖のためには、直径40 m、水深20 mもの大きな生簀が必要になります。
マグロは光などの刺激に敏感に反応して、瞬発的に時速60kmもの高速で泳ぎ、その結果生簀の網に激突して死ぬということもよくあるそうです。また、日本海で行われている天然マグロ漁では、網が使われていますが、捕獲する時にマグロが激しく暴れ、体温が上昇し肉が「焼ける」という現象を起こすそうです。焼けてしまった肉は著しく食味が劣化するのですが、それらは回転ずしに出荷されてゆくとのこと。天然物で有名な大間マグロであっても、捕獲に時間がかかり暴れたときにはやはり肉が焼けてしまうそうで、天然マグロには当たりはずれがある。その点、養殖マグロはよく管理されているので、めったにはずれは無いそうです。
西海区水産研究所の玄さんたちは、マグロ養殖をより容易にすることを目指し、刺激に敏感な反応に関与する遺伝子をゲノム編集技術で切断し、「おとなしい」マグロ稚魚を作ることに成功しました。しかし、実際にはマグロは、サケのように人工授精ができないので、水槽で飼ったマグロが産卵受精するのをひたすら待ち、産卵したら直ちに水槽から受精卵を回収、卵割が始まる1時間ほどの間に素早く、顕微鏡の下で1個1個卵に人工制限酵素を注入するという気の遠くなるような作業をせねばなりませんでした。
また、そもそもたくさんの卵からわずかの成魚が成長するというマグロの生存戦略のため、遺伝子操作を成功させた稚魚を成魚まで成長させるのもたいへんです。しかし、一旦「おとなしい」マグロが成魚まで成長すれば、その子もおとなしい遺伝子を保持しているので、おとなしいマグロの完全養殖のサイクルが可能になります。
しかし、完全養殖といっても、今のところマグロの養殖には人工飼料はなく、マグロを1 kg成長させるのに、15kgものサバが与えられているそうです。マグロは太平洋の生態系の頂点にあります。人間はそのマグロを日常の食卓に乗せ続けようとする。気候変動とも関連し、地球規模で漁業資源が減少し続けている中、はたしてマグロ養殖は持続可能なのでしょうか?遺伝子操作の産業利用を考えるという企画でしたが、むしろ海洋生態系と食のあり方を考えるサイエンスカフェになりました。
スポンサーサイト